活版印刷
2年次に履修した印刷文化論と、3年次に履修した編集研究、どちらも書物に関する科目だった。正確に言えば、書物にも関する科目。
本など書物はほとんどが平版印刷になった現在、活版印刷は古い書物でしか見ることはない。
私もツルッとした本文の本に慣れてしまっている。
ところが、最近東野圭吾の本を読み始めたら、活版印刷にお目に掛かることとなった。
印刷には大きく分けて、凸版印刷、凹版印刷、平版印刷、孔版印刷がある。
印刷文化論では凸版、凹版、平版を三版方式として、その三版についてのレポートを書いたのを思いだした。
三版方式の中で最初に世界に広まったのは凸版印刷である。凸版印刷は活版印刷、木版印刷、フレキソ印刷などがある。
15世紀にグーテンベルクが鉛合金の活字を考案、葡萄絞り器を改良して平圧印刷機を開発したことにより、活版印刷技術は大きく発展した。
現在主流の書籍印刷は平版印刷だ。その大部分を占めるオフセット印刷の大きな特徴は、活字のかわりにコンピュータ文字(コンピュータ以前はタイプライターや写植文字)が使用され、手書きの文字や図版も同時に全て同じ版で一気に印刷できるようになったこと。1970年頃に大型のオフセット印刷機が登場すると、巨大なカラー印刷が瞬時にできるようになった。現在は更に工程がデジタル化し、印刷物はより高速・高品質化している。このアナログからデジタルへの印刷技術の劇的な飛躍は、大量の活字の保持、活版技術者の確保の必要を薄れさせ、印刷の一大転換期となった。
とまあ、こんなことをレポートに書いた(実際は、それぞれの印刷方式の文化的・芸術的役割、凹版についてもきちんと書いた)。
添削では、それぞれの役割を的確に把握し、完成度の高いレポートとなっているという、うれしいお言葉を頂いた。
編集研究では、その活版印刷と平版印刷(オフセット印刷)、それぞれの特徴と見分け方などを教わった。
ルーペを使って活字の違いを眺めたりしたが、一番簡単な見分け方は、紙のデコボコだ。
活版印刷は凸型の活字にインキを付着させ、印圧によって紙にインキを転写する方法なので、その印圧により紙にデコボコが出来る(場合が多い)。
オフセット印刷ではそれがない。簡単に言うと、凹凸のない薄いアルミ製の版の表面に感光剤が塗られており、感光させて現像、「水をのせやすい部分」と「水をはじく部分」ができるように加工されている。この版を水で濡らした後にインキをつけると、「水をはじく部分」にだけインキが残るという仕組み。
そんなことを懐かしく思い出した。
さて、東野圭吾のガリレオシリーズ。
今さら私などが言うまでもなく、ドラマ化、映画化されている人気シリーズだ。
しばらく読んでいなかったので、図書館で最初から全部借りて読んでいて、活版印刷にお目に掛かったという次第。
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上記の単行本のうち、活版印刷は、最初の2冊。
読んでいてやけにデコボコしているな、あ、そうか、活版なんだと気付いた。
『探偵ガリレオ』の初版は1998年、『予知夢』の初版は2000年である。
すでに書籍はオフセット印刷が主流になっていた頃と考えられる。東野圭吾は活版にこだわる人だったのかもしれない。
作家の中には印刷方法にもこだわる(つまり活版に)人もいると聞いたことがある。
2005年初版の『容疑者xの献身』からはオフセット印刷だった。
これまで本を読むときに、活版か平版かなどほとんど考えたことがなかった。興味が無かったとも言える。
デコボコだろうがツルツルだろうが、読めればよかったわけで・・・。
どうして東野圭吾の本を読んでいてそんなことに気付いたのだろうと我ながら不思議だった。
で、これは同じシリーズを次々と読み、同じシリーズなのに手触りが違うのでアレっと思ったのだろう。
もちろん、2000年ー2005年の間に東野圭吾は他にも作品を発表している。だからどこから平版に変わったのか、確かなことは全部をみてみないとわからないわけだが、同じシリーズの中で、活版から平版へと変化したこと一つをとっても、時代の流れを感じることが出来るのだ・・・と思った。