日和見日記

pig-pearl 一行紹介 2012年4月に武蔵野美術大学通信教育課程に入学、2018年3月卒業しました。日常生活のあれこれを記述しています。

『職人の近代 道具鍛冶千代鶴是秀の変容』土田昇著

職人の近代――道具鍛冶千代鶴是秀の変容

職人の近代――道具鍛冶千代鶴是秀の変容

千代鶴是秀はその世界では著名な大工道具鍛治である。著者の土田氏は学者ではなく、刃物店三代目店主。お父さんは千代鶴是秀本人との交流があったらしいが、土田氏本人は交流がない。お父さんから受け継いだ資料をもとにコツコツと調べ、書き上げた本である。


私が千代鶴是秀の名前を知ったのは朝倉文夫のことを調べていた時である。
彫刻のみならず、多彩な趣味を持ち、興味を持ったことはとことん突き詰めていった朝倉は、道具類も最上品(高級品と言うことではなく、自身の感じる最上の品)を集めており、千代鶴の植木鋏、折り畳み式枝引き鋸、小鉈、合口小刀の5点セットを10年近くかけて揃えた。その5点セットの収納ケースまで誂えている。(『朝倉彫塑館』台東区芸術文化財団発行より)
千代鶴是秀については竹中大工道具館が2015年に特別展を開催している。
http://www.dougukan.jp/special_exhibition/chiyozuru_korehide



そもそも私は彫刻というものがよくわからない人間である。よくわからないが自宅から近いということ、彫塑館の建物が好きというだけで、いくつかの課題レポートで朝倉彫塑館について書いた。当然、書く前は朝倉文夫についてはそれほど詳しくなかった。そんなでも書いているうちにはイヤでも詳しくなる。その中の一つに千代鶴是秀のことがあったのである。
図書館でこの本を見つけたとき、もしかしたら朝倉文夫の名前も出てくるんじゃなかろうかと思ったら、やはり出てきた。それで借りてきて読んでいたら、柳宗悦の名前まで出てきた。
これはもう買わねばなるまいと思い、Amazonで注文。2,3日中には届くだろう。


タイトル通り、千代鶴是秀の制作した道具類と人生を熱心に調べた著書で、大工道具にはそれほど興味のない私でもたいそう面白く読めた。掲載されている是秀作の刃物類の写真が、何とも言えない鋭さで、鋭いのに怖いとは感じられず、ただただ美しい。(写真は秋山実)

↑この表紙を見ただけで、この本も欲しくなった


しかし、何が一番おもしろかったかと言えば、千代鶴是秀の職人としての矜持や、土田氏本人は彫塑や民芸運動については詳しくないがとしつつも、朝倉文夫の芸術家と職人としての矜持、柳宗悦民芸運動の背景について、独自の考察で論じていることである。そして千代鶴是秀と朝倉文夫の関係など、それらは私が考えていたこと、あるいは疑問に思っていたことへの返答のように感じられた。
なんというか、土田氏の仕事への姿勢というものが感じられ、読後感の良い本だった。