包丁を研ぐ
結婚して間もなくの頃に買った文化包丁。奈良に行ったときに買った(と記憶している)。
名前も入れてもらったので、そこそこ大事に使っている。
怠け者だから一ヶ月に1回くらいしか研がない(>_<)。もっときちんと手入れしなくてはいけないんだけれど・・・。
で、今日久しぶりに研いだ。これでトマトもスパッときれいに切れるぞー(^^)。
包丁を研いでいると必ず思い出すことがある。
日本橋人形町「うぶけや」は打刃物の製造販売している刃物専門店。私は仕事用の丸包丁や裁ち鋏はうぶけやさんで購入していた。老舗として有名で、先代のご主人はたいそう頑固な職人としても有名だった。
一番最初にうぶけやで裁ち鋏を買ったのは35年くらい前だった。
その鋏を10年使用して少々切れ味が落ちてきたので研いで貰うために持って行った。
すると私の前のお客さんがやはり鋏の研ぎを依頼していた。
ご主人、それはそれは渋い顔で、ろくにお客さんの顔も見ない。引き受けてはくれたけれど、たいそうご機嫌斜めなご様子だった。
それで私も恐る恐る鋏の研ぎをお願いしたわけです。こちらで10年前に購入した鋏ですが、研いでいただけますか? と。
すると、私の鋏を見たご主人、さっきとは打って変わって笑顔になった。
10年、大事に使ってくれたんですね、綺麗に使ってくれてありがとう、と言われた。そして、コレ見てよ、と出してきたのが先ほどのお客さんが依頼した鋏。
その鋏がサビッサビのボロッボロ・・・。
きっと使ってなかったんだよ、こんなに錆びちゃってさ、使わないとこうなっちゃうんだよ、しまって置いた場所も悪かったのかな、とつぶやき、精魂込めて打った鋏をこんなにしちゃって・・・という無念の表情で鋏を見つめていたのだった。
そんなご主人だったが、それからさらに10年経って新しい鋏を買いに行ったときにはお店に出ていなかった。研ぎに出したときもご高齢だったから、体調が悪いのか、お亡くなりになったのか、それはわからない。
さらに数年経って行ったときには、おかみさんもいらっしゃらなく、当代と奥様が応対していた。
当代は人当たりも良く、職人さんというよりは商人っぽい。
良い悪いではなく、親子と言えども性格は違うだろうし、今の時代を乗り切るためには愛想の良さも必要だろうな、なんて思ったりした。
さて、包丁の話。
10年くらい前にそのうぶけやさんに丸包丁の研ぎをお願いしに行った時のこと。先客は若い親子連れだった。
若いパパさん、どうやら板前さんらしい。
数本の包丁を熱心に見ていたが、その中では一番高額の包丁が気に入った様子だった。そして、赤ちゃんを抱っこした奥様に「これにしても良い?」と聞いていた。奥様は「良いよ」と笑顔で答えた。それでもその若いパパさんはかなりためらっていたけれど、結局購入を決意した。
私は、心の中で「頑張っておいしいお料理を作ってね。そして奥様やお子さんを大事にしてあげて」と応援してしまったのだった。家計を考えて高価な包丁の購入をためらうパパさんと、大好きな旦那様のためにお金のことは一切言わない奥様が、とってもほのぼのしていて、かわいい赤ちゃんのためにも頑張って欲しいなと思ったのだった。
あの旦那様は立派な板前さんになれただろうか、あの子ももう中学生くらいかな・・・と、包丁を研ぐたびに思い出すのですよ。