日和見日記

pig-pearl 一行紹介 2012年4月に武蔵野美術大学通信教育課程に入学、2018年3月卒業しました。日常生活のあれこれを記述しています。

三億円事件から50年が経とうとしている

99%の誘拐 (講談社文庫)

99%の誘拐 (講談社文庫)

先月から岡嶋二人の作品を再読している。
しばらく読んでいなかったので新鮮な気分で読んでいる。
『99%の誘拐』はすっかり内容を忘れていた。絶対読んだはずなのにな・・・。


物語は、昭和43年(1968年)9月9日が事の発端となっている。
その3ヶ月後、12月10日には三億円強奪事件が発生、その7年後の公訴時効の直前、昭和50年12月9日からこの物語は始まっている。
そしてさらにその11年後、昭和62年、表題の事件がおこったのである。


うーーーん、三億円事件とはそんなに昔のことだったのかと改めて思う。
あの事件の時、私は10歳だった。
10歳の私には三億円なんて想像もつかない金額だった。
なにしろ当時の三億円は現在の10億円、あるいは20億円、いやそれ以上とも言われている。あんまり高額でピンとこなかったというのが正しいかもしれない。
それでも連日テレビで報道されていたから、大変な事件がおこったということだけはわかっていた。
それにしても今年の12月には事件発生から50年、半世紀も経ってしまうのかと、つくづく時の流れを感じてしまったのだった。


さて、小説の方は、岡嶋二人だから本当に文章がうまく、そんなことに驚きながらもぐいぐい読み進められる。

第一章は父から子への遺書である(ここに三億円事件の説明が入る)。この章では、父が子を思う気持ちに泣かされる。同じ岡嶋二人の作品『チョコレートゲーム』に通じる、切ない切ない親心なんである。
『チョコレートゲーム』では長男が亡くなってしまい、しかも容疑者になってしまう。その事件を解明しようとする父親の物語。長男が生きているときに何もしてやれなかったことを悔やんで悔やんで、必死に真相に迫ろうとする父親の心情が本当に切なかった。
『99%の誘拐』では癌で亡くなる父親が、「慎吾、強い人間になって下さい。私は弱い人間だった。 ー中略ー 慎吾、お父さんを許して下さい」と、遺書の最後で子(慎吾)に書き残している。


『チョコレートゲーム』『99%の誘拐』のどちらにも、父親が子を思い、必死になる姿が描かれている。
それは時に傍から見れば滑稽で哀れで情けない姿に映る。しかしなりふりかまわず必死になる姿からは、子どものためにこんなことをやれるのは自分しかいないという、追い詰められた孤独感がヒリヒリと伝わってくる。
あ、いかん、涙がちょちょぎれそう。。。


第二章は第一章の事件と第三章の事件を繋ぐ、短いが大事な章。


第三章から本格的に事件に入って行く。内容はIT技術をつかった誘拐事件。 1988年(昭和63年)の作品なので、30年前の作品と言うことになる。IT技術の進歩は凄まじいなと、そういう意味でも楽しめた。
そもそも、主人公の父親(遺書を書いた人ね)は、最初の就職が電気通信省。この電気通信省は昭和24年、逓信(ていしん)省から分割設立、昭和27年には日本電信電話公社電電公社)になっている。
遺書は昭和50年から51年にかけて書かれたものなので、まだ電電公社だったが、事件が動き出す昭和62年(1987年)には電電公社は民営化され日本電信電話株式会社(NTT)となっているわけで、いやはや。。。それからだけでも30年経っているんだもんねぇ。


とかなんとか、本筋とは関係ない方に思考が飛んでいってしまうのは私がそういう年齢だからだろう、うん。


事件のトリックは、当時の最先端技術を駆使し・・・とだけ記す。
当時、ですからね。
しかし、この物語の本質はそこではないわけで、30年経った今でも十分楽しめる良質な作品だと、私は思う。