『ノースライト』横山秀夫著を読む
横山秀夫、久々の新作。図書館での順番待ちで今になった。
初出は『旅』2004年5月、6月号、11月号〜2005年12月号、2006年2月号だそうだ。
単行本になるまで13年もかかっている。どうしてそれほど時間がかかったのか、理由はわからないが、刊行にあたり全面改稿したと書かれているので、かなりの熟考と推敲をしたんでしょう、きっと。
今作は警察小説ではなく、建築士・青瀬が主人公の話。ミステリーと言えばミステリーなんだけれども、どちらかというと家族の話、と言っちゃって良いかと思う。
警察小説を書いていた人だから、素人(今回は建築士)が地道に調べても必ず壁にぶち当たる、という、かなりリアルな進行。
テレビドラマや、いい加減な推理小説みたいに、素人が警察を出し抜いて謎を解決するなんてことにはならないわけで、だから今回の謎は素人がなんとか解き明かせる程度の謎だと思ってよろしい・・・かも。だから謎解きが主軸ではないということ。
ノースライト(North light)は、建物の中に北側から射し込む穏やかな光ということらしい。北の明かり、くらいの意味らしい。
その、北からたくさん光を取り入れている家が物語のメインとなる建造物。これは主人公が設計したY邸。
もう一つ、物語の柱となる建造物があり、こちらは最後まで建造されてはいないが、故人となった女流画家の記念美術館。この美術館の設計のコンペに、主人公の所属する設計事務所が参加しようと奮闘する。
で、Y邸の設計を依頼した人間の謎には、ブルーノ・タウトが絡んでくる。
ブルーノ・タウトはドイツ出身の高名な建築家で、日本には1933年から3年半滞在している。このブルーノ・タウトに関する記述がかなり多い。横山さん、よほどブルーノ・タウトに心惹かれるものがあったのか?
建築に興味のある人、ブルーノ・タウトが好きな人にとっても、おもしろい小説になっていると思う。
それにしても、文字で建造物を表すのは難しいねぇ。建築の知識がない私には、想像力をフル回転させてもなかなか映像が見えてこない。ぼんやり想像するだけ。