日和見日記

pig-pearl 一行紹介 2012年4月に武蔵野美術大学通信教育課程に入学、2018年3月卒業しました。日常生活のあれこれを記述しています。

『東京の原風景〜夭折(ようせつ)の絵師・井上安治が描いた明治』

26歳で夭折した絵師、井上安治について。
小林清親に弟子入りし、明治10年代の東京の姿をリアルに描き出した、知られざる明治東京名所絵のシリーズ134点を、現在の風景との比較や明治の文豪の思い出の文章をまじえながら紹介。
番組では主に杉浦日向子さんの作品《YASUJI 東京》(1988年)を取り上げて安治の絵の特徴を紹介していた。


私が安治の名を知ったのは、杉本章子さんの《東京新大橋雨中図》(1988年下期:第100回直木賞受賞作品)という小説を読んだときだから、大分前になる。
この本は、幕末から明治期の混乱の時代に生き、最後の浮世絵師と言われた小林清親の話。タイトルの《東京新大橋雨中図》は清親の代表作の1つでもある。
この小説には安治が清親の弟子となった経緯も書かれているが、今回日曜美術館で紹介された二人の出会いとは少々違う描き方がされている。
日曜美術館では「雪の日に清親が風景を描いているときに二人が出会った」としていたが、杉本さんの作品では「安治が清親宅に弟子にしてくれと直談判に行きそれが二人の出会い」ということになっている。小説だから全てが本当のことを描いているわけではなく、多少の脚色はあっただろうと思われる。
また、安治にとって弟弟子にあたる土屋光逸の述懐によると雪の日に出会ったとされているらしいので、まあそちらが本当のところなのかもしれない。
私としては、杉本さんのこの小説がとても好きなので、こちらの説を本当だと思いたい気持ちもあるのだが・・・。


うちにも、清親、安治の版画が少しだけある。
安治の版画は夜の暗いイメージがある(夜の風景ばかりじゃないけれど)。とても綺麗な絵で、すごく好きと言うほどではないけれど、嫌いではない。
つまり、強烈にこちらに訴えかける絵ではないけれど、心に残る絵であることも確かだ。
浮世絵は近年再評価が進んでいる。安治ももっと沢山の人に知って貰えるといいなと思う。